ITコンサルタントが書いたIT戦略・IT企画入門

ITコンサルタントが書いたIT戦略・IT企画入門

井上実(著)

 

<所感>

IT戦略を策定するにあたっての進め方や考え方のフレームワーク等を知りたいと思い購入した。似たようなテーマを扱っている書籍はいくつかあったが、相当な分厚さであったり、経営戦略ではなくテクノロジー面からアプローチしていたりと、なかなか期待に沿うようなものが見当たらないなかで、本書は内容もスタンダードで、ボリューム的にもさくっと目を通せるものではないかと思いこちらを選択した。

内容としては、IT戦略立案の全体感・プロジェクトの流れを把握できるものではあったが、具体的な方法論を学べるものではなかった。以下のまとめに記載した通り、課題分析にあたっては経営戦略をITの目標に落とし込むことが必要だが、どのように落とし込むのかまでは本書は踏み込んでいない。これにあたっては経営知識や業務知識、IT知識が必要となり、会社毎に事情も異なるであろうことから、なかなか一概には言えないものではあるのだろうが、だからこそ知りたい部分だった。

 

<まとめ>

①UISSタスクフレームワーク

ユーザ企業の情報システム部員を育成するためのスキル標準だが、本書ではIT戦略・IT企画が企業活動の中でどのような位置づけにあるかを整理するために紹介されている。

なお本書はタイトルにある通り、IT戦略とIT企画について解説しているが、今回のまとめではIT戦略にフォーカスし、IT企画については触れないこととする。

UISSタスクフレームワーク上、IS戦略(≒IT戦略)は、全社戦略>事業戦略策定>機能戦略別策定(財務・販売・生産・購買・IS...)>IS戦略策定>個別案件(IS企画>IS導入>IS企画評価)>IS戦略評価という形で位置づけられている。つまりIS戦略は全社戦略と事業戦略をインプットとして策定される。

全社戦略は各事業のポートフォリオマネジメントであり、経営資源(ヒト・モノ・カネ)をどのように配分するかを検討・立案したもので、事業戦略は与えられた経営資源を活用しどのように事業活動を行うかを検討・立案したもの。

IS戦略は機能別戦略のひとつだが、機能別戦略は事業戦略毎に策定される場合と、全事業横串で策定される場合がある。

経営戦略(全社戦略・事業戦略)を実現するためのものとしてIS戦略は策定される。

 

②IT戦略立案方法論

IT戦略は企業の抱えている問題を解決することを目的とし、問題を目標と現状のGapと定義する。ついてはまず目標と現状を明確にすることが必要となる。

本書では問題解決ステップを6つに分け、1.目標を描く>2.環境分析>3.原因の分析>4.解決策案の立案>5.解決策案を評価し意思決定>6.解決策の実施、と定義している。

これをIT戦略立案方法論に落とし込み、1.プロジェクト準備>2.課題分析>3.新業務プロセス策定>4.システム導入計画策定、の手順でIT戦略を立案することとしている。

今回は課題分析の手法がもっとも知りたい部分であったため、そちらについてまとめる。

課題分析は、1.経営戦略の理解>2.環境分析>3.原因の分析>4.解決方針の立案のプロセスで実施する。

1.経営戦略の理解

まず資料として経営戦略書、中期経営計画書、事業計画書、組織図等を収集する。これらから仮説を立て、仮説を検証するために経営トップ(社長、事業部長、役員等)に対してインタビューを行う。インタビューにより理解した経営戦略から、各業務の目標およびITの目標を描く。経営戦略を実現するために、どの業務がどういう姿にならなければいけないのか、それに対してITはどうあるべきなのか検討を行う。

2.環境分析

経営戦略の理解から描いた各業務の目標、ITの目標に対して、現状がどう乖離しているかを調査分析し、問題点を洗い出す。まず資料として業務マニュアル、ITシステム概要書、システム鳥観図等を収集する。これらから現状を把握し、問題点について仮説を立て、仮説を検証するために、各業務部門、IT部門に対してインタビューを行う。

3,4.原因分析、解決方針の立案

環境分析により把握した問題点を整理し、原因分析を行う。原因の整理できたら、それらの原因を解消するための解決案をまとめる。

 

RFIRFP

上述の課題と解決案を整理した後、新業務プロセス策定を行うが、システム化を行うにあたっては、新業務プロセスを効率的に実現可能なパッケージの調査を行う。

ベンダーやSI会社と秘密保持契約を結んだうえでRFIを提出し、情報提供を依頼する。RFIでは策定した新業務プロセスとパッケージで適合している部分と適合しない部分を整理し、不適合部分に対してどのように対処するかといった情報を求める。RFIに記載する要件は、機能要件と非機能要件(開発要件、運用要件、技術要件)に分かれる。

RFIRFPの大きな違いは以下の通り:

提出時期:RFIは企画段階、RFPは詳細が決まり業者選定を行う導入段階

費用見積:RFIは概算費用見積、RFPは詳細な正式見積(=発注金額)

 

経産省資料

本書とは関係ないが、IT戦略立案のうえで参考になりそうな経産省レポートを乗せる。

 

1.DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~

2025年までに老朽化したレガシーシステムにまつわる課題を解決しなければ、それらが技術負債となってDXを阻害する、というレポート。

現在はIT予算の8割が維持・保守に割かれているが、2025年にはそれを6割まで削減し、デジタル投資に回す、というのは定量的な情報として有用ではないだろうか。

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html

 

2.DX推進指標

経営者や社内の関係者がDXの推進に向けた現状や課題に対する認識を共有し、アクションにつなげるための気付きの機会を提供するもので、35項目の定性指標から成り、それぞれレベル0-5の6段階でベンチマークが整理されている。

https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003.html

 

3.デジタルガバナンス・コード

国内企業が目指すべきデジタルガバナンスのあるべき姿を示しつつ、それに向けた達成状況を可視化して各企業のDXの推進状況を客観的に評価できるよう体系化したもの。5つの原則から成る。

上の二つといまいち目的や立ち位置がわかりにくい。成果物はこれが最終形なのか、それともまだ検討は続けるのか?以前にはITガバナンスの検討会も開いていたがそのつながりもよくわからない。

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_governance/190917_report.html