マタギ奇談

マタギ奇談

工藤 隆雄 (著)

 

<あらすじ・概要>

著者がマタギの人々に取材し集めた、彼らが経験した山での不思議な出来事を一冊にまとめたもの。六章立てとなっており、それぞれ以下のような話をまとめている。

第一章 歴史のはざまで

・映画にもなった八甲田山の雪中行軍の道案内をしたマタギの話や、江戸時代の旅行家である菅江真澄にまつわる話など。

第二章 マタギ伝説

マタギが山の神のために行う風習や、あるマタギの飼い犬がもたらしたという祟りと福など、マタギの間での言い伝えをまとめている。

第三章 賢いクマ

・クマは死んだ演技をしたり、自らを傷つけた相手を追いかけ夜な夜な山から降りてきたりと、時にマタギの想像を超えるような動きを見せる。

第四章 山の神の祟り

・クマを一日に狩って良いのは三匹までで、四匹目を狩ると不幸がある、12人組での狩りはうまくいかないため人形を拵えて13人目とするなど、マタギは不思議な決まり事をいくつも持っており、その決まりごとにまつわる話をまとめている。なにか不幸があれば、その決まりを守らなかったからだという人もいる。

第五章 不思議な自然

・山中の池に住むという得体のしれない巨大魚の話や、ある日木々の声が聞こえるようになった男の話。

第六章 人間の不思議な話

・山菜取りにきた夫婦が崖に転落してしまった事件での奇妙な話や、著者が山で迷った際に出会った老マタギと犬の話など。

 

<所感>

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山で暮らす人は皆、山の中で何かしら不思議な体験をしているものだと聞いたことがあり、そのような話が知りたいと思っていたところ、好奇心をそそる題名の本書に出会った。

どちらかというと怪談のような話を思い浮かべていたため、想像とは異なる内容ではあったが、著者が自らの足で収集した話ということもあり、マタギの人々の生活が豊かに描かれており、十分に楽しめるものであった。個人的にもっとも興味をひかれたのは菅江真澄にまつわる話だ。

白神山地に暗門の滝という滝があり、江戸時代の旅行家である菅江真澄は、当時の弘前藩に何度も訪問の許可を願い出てまでその滝を訪ねたことがあった。当時は特段景勝地として知られているわけでもないこの土地をなぜそうまでして見たがったのか。菅江真澄は謎の多い人物で、数十年に渡る放浪の旅費がどこから出ていたかもわからず、それ故に江戸幕府の間者だという説がある。また弘前藩は阿片を極秘に製造しており、その原料となる芥子を暗門の滝近くで栽培していたらしい。菅江はその秘密を確かめるためにこの地を訪ねたのかもしれない。今となっては真実かどうか確かめようもないが、この謎が当時を生きる人々の実在性を感じさせてくれ、浪漫あふれる話だと思う。