不況を勝ち抜く予算管理ガイドブック

不況を勝ち抜く予算管理ガイドブック
芳野剛史 (著)

 

<所感>

予算管理の入門書としてとても良い本だった。

予算管理をキーワードに書籍を検索すると、管理会計をテーマにしたものが多くヒットする。そういった書籍だとどうしても損益をどういった切り口で見るのか、製造原価をどのように集計するか、間接費をどう扱うかといった実績管理の話が中心になり、予算管理はあくまでそのなかの一つのテーマという扱いに留まる。その点、本書は予算管理そのものが題材であり、予算管理について体系的に学ぶことができる。

 

<まとめ>

①予算の機能

1.計画:財務的、定量的な目標としての計画。

2.調整:全社として整合がとれた予算となるまでに行われる、各部門間の調整。上下部門間における垂直的調整と、同組織階層における水平的調整に分かれる。

3.伝達:作成された予算は全社および各部門の目標としてオフィシャルに伝達される。

4.動機付け:予算作成や調整を通じた目標値へのコミット。

5.業績評価:予算の達成度は部門や個人の業績評価へと連動する。

 

②予算管理の位置づけ

ミッション>ビジョン>中期経営計画>予算>単年度事業計画

 

③予算管理体系

予算編成の最終的なアウトプットは各種財務諸表形式のP/L予算、B/S予算、C/F予算となるが、それらは各種の予算の積み上げにより作成される。

総合予算:損益予算、資金予算、資本予算の3種類から成る。

損益予算:販売予算、製造予算、購買予算、一般管理費予算等から構成される。

資金予算:現金収支予算(現金の収入と支出)、信用予算(債権、債務の信用取引にかかる予算)、運転資本予算(流動資産から流動負債を差し引いた予算)から構成される。

資本予算:設備投資予算、投融資予算から構成される。

 

⑤予算編成プロセス

大まかな流れ

中期経営計画>予算編成方針の発案、策定、決定>部門予算案の作成>総合予算案の作成、各部門との調整>予算の審議と決定>確定予算の伝達

 

損益予算

1.売上予算:予算編成の起点となり、売上予算を基に製造予算や購買予算等が設定される。製品や顧客、地域などの管理セグメント別に作成する。各部門で作成した予算を集計する積上法(ボトムアップ)と、マクロ的な視点から予測する見積もり法(トップダウン)が存在する。

2.販売費予算:配送費など販売量に依存するもの、広告宣伝費など販売量に依存しないものがある。

3.製造予算:売上予算の販売量に基づき作成される。製造高予算、製造原価予算(直接材料費、直接労務費、製造間接費)、在庫予算に分かれる。年間生産量は「売上予算の予定販売量ー期首製品在庫数量+期末製品在庫数量」となる。

4.購買予算:製造原価予算と在庫予算に基づき作成される。

5.一般管理費予算:役員報酬や本社人件費(人員計画に基づき作成)、減価償却費、水道光熱費等。

 

資金予算

1.現金収支予算:各部門の作成する予算から現金収支に関するもの(売上予算、販売費予算、製造原価予算等)から現金の動きを見積もったもの。

 

資本予算

1.設備投資予算:新規設備投資や研究開発にかかる予算。減価償却費にも影響する。

2.投融資予算:投資案件は予算編成時および予算執行時に評価を行う必要がある。

 

総合予算

各種予算を基にP/L, B/S, C/F予算を作成する。

 

⑥予算統制プロセス(予実管理)

大まかな流れ

実績集計>予実差異分析>対応策、報告資料の作成>経営報告>対応策の実行>対応状況のモニタリング

 

⑦予算不要論

予算管理の課題としては以下のようなものが存在する。

・予算編成や予算統制に膨大な時間やコストをかけている

・計画の固定化、環境の変化に対応できない

・目標設定における社内の駆け引き

上述の課題から予算不要論も登場し、予算管理に依らない管理手法も登場している。代表的なものは「脱予算経営(ホープ、フレーザー共著)」など。

 

⑧バランス・スコアカード

財務の視点、顧客の視点、内部プロセスの視点、学習と成長の視点の4つの観点から評価を行う管理手法。

 

⑨ローリング・フォーキャスト

年度単位で作成した予算や業績予測を、経営環境の変化に合わせて四半期等で更新していく手法。

 

⑩その他

本著には上述のトピック以外にもABCやABM、ABB、予算管理BPRの考え方、リスク対応、ポートフォリオマネジメント、KPI管理、予算管理に伴う課題、海外の動向など、参考になる情報が多く記載されている。